『花と錬金術』によせて〜その1
地所を売れ、家作も、着物も、宝石も売り払え、書物は焼くがよい!
そして丈夫な靴を買え、山々を渉猟し、谷々を経巡り、砂漠を、海浜を、ひたすらに歩け。
・・・植物の示すさまざまな変化、・・・あらゆるものの発生の様態と性質とを、透徹した注意力で観察せよ。
・・・そして、火によって万物がどのように変わるかを、注意深く観察せよ。
この方法のほか、事物についての知識、その性質についての知識に到る道はあり得ないのだ。
(村上陽一郎『科学史の逆遠近法』p.275より孫引)
これは、錬金術師として名高いパラケルススの流れを汲む、
16世紀のパラケルスス主義者ペトルス・セヴェリヌスの言葉です。
しかし、フラワーエッセンスを開発した20世紀のイギリス人医師、
エドワード・バッチ博士の生涯を知る人であれば、
誰もがこの言葉に彼の姿を重ね合わせることでしょう。
「パラケルススは人間の中に確かに神を見ていた」として、
バッチはパラケルススを高く評価して尊敬していました。
その彼の生き方が、セヴェリヌスの語る錬金術的な世界に通じているのは、
ある意味で当然と言えるかもしれません。
フラワーエッセンスを開発する以前、
バッチは腸内細菌からホメオパシーのレメディを開発して治療にあたり、
大きな成果をおさめ、名声を博していました。
しかし、バッチはそれに満足することなく、新たな治療薬を野草に求めました。
君、昔ならったことはすべて忘れてしまうのだ。
過去を忘れて前進したまえ。
君は自分の探し求めているものをいつか見つけるだろう。
(ウィークス『心を癒す花の療法』p.72-73)
内科医のクラーク博士の言葉に勇気づけられて、
バッチは研究所を閉鎖し、論文を焼き、靴の詰まったケースを手にして、ウェールズへと旅立ちました。
そして、野山を巡り、ひたすら植物の研究を重ねました。
やがてある朝、バッチはついに花の朝露に癒しの力を発見することになります。
その時、バッチが植物の中に見たものとは、一体何だったのでしょうか。
バッチが研究過程で作成したノート類は、生前に自らの手で破棄されたと言います。
しかし、彼の助手であったノラ・ウィークスが、わずか数行ながらそのヒントを残しています。
バッチは植物の育っている場所、選んでいる土壌、花弁の色、形、枚数、
また根茎で広がっていくのか、根や種子で広がっていくのかなどに注意しながら、
沢山の植物を調べて一日中過ごしました。
(ウィークス、前掲書、p.78)
パラケルススは、植物の中には個々の病気に対応する秘薬が潜んでいると考えました。
さらにその薬効は、植物の外的な特徴表示から理解できると考えました。
バッチが植物の生態や形態に注目していたのは、おそらく特徴表示を読み解くためでしょう。
『花と錬金術』は、その特徴表示という観点から、バッチのフラワーエッセンスを紹介した本です。
この本を読みながらバッチの歩んだ道を共に歩むことで、きっとフラワーエッセンスに関する理解を新たにすることでしょう。
『バッチフラワー 花と錬金術』 東 昭史著/大槻真一郎編集協力/東京堂出版刊(2007年4月10日発行)